時を止める動物-クマムシ

こんにちは。クマムシの耐性に関わる非ドメイン型タンパク質の解析という内容で参加させていただいております東大の國枝と申します。

自己紹介を兼ねて、なんでクマムシなんて研究するようになったのかその経緯を書かせていただこうと思います。

クマムシの研究を始めてかれこれ16,17年になりますが、学生の頃はまさか自分がクマムシの研究をやるとは思っていませんでしたし、そもそもクマムシの存在自体を知りませんでした。当時いつかやりたいと思っていたのは、生命の人工合成、できれば現世の生命と同レベルのものを人工的に再現したいということでした。若気の至りとしか言いようがありませんね。どうやったらそんなことを実現できるのか自分なりに色々考えたり調べたりはしていたのですが、数年考えてもなかなか良い案が浮かびません。手をつける見当もつかず、別の研究に勤しんでいたわけですが、そんな時に出くわしたのがクマムシでした。

私がクマムシを知ったのは「へんないきもの」(早川いくを著)https://www.shinchosha.co.jp/book/131891/という書籍でしたが、調べれば調べるほどまったくもって変な生き物だという印象でした。極限環境耐性も衝撃的だったのですが、一番興味を惹かれたのは、乾燥すると生命活動が止まって、水をかけると復活するというところでした。乾燥していると生命活動が停止して、いわば物質の塊のようになる。でも死んだわけではなくて水をかけると生命活動が復活する。それでふと思ったんです。乾燥した状態、物質の塊のようになった状態なら人の手で作れるんじゃないかと。乾燥したクマムシと同じように物質を配置して塊を作れば、あとはそれに水をかければ生命として動き出すはずだと。とてもナイーブな考えですが、数年考えても見つからなかった解決方法がようやく見つかった気がして、そこでクマムシの研究に踏み切りました。

それから十数年、ゲノムを解読したり色々やってみて、どうやらクマムシにしかない固有のタンパク質が耐性に重要そうだと言うことが分かってきました。クマムシ固有のタンパク質ということでもちろん既知のドメインというものはありませんし、どうやら特定の構造をとらない天然変性状態であるらしいことも分かってきました。この領域では耐性に関わる非ドメインタンパク質をさらに見つけるとともにその作動機序を明らかにしていきたいと思っております。

…クマムシとの出会いのところ、少し省略してしまったのですが、実はクマムシのことを私に教えてくれたのは嫁さんです。結婚前に本屋に行った時に平積みされていた「へんないきもの」を手にとってクマムシはおもしろいよね〜と教えてくれました。大学の講義で先生が面白い生き物だよねといって教えてくれて知っていたのだそうです。つまり私が十数年クマムシの研究をしているのはその先生の講義が嫁さん経由で私に伝わったことがきっかけです。ちなみにその先生とは今同じ大学の同僚になっています。講義を担当されている教員のみなさま、また講義を受けている学生のみなさん、その講義がいつか誰かの人生を変えることがありますよということを述べて本稿を締めたいと思います。

今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

投稿者プロフィール

國枝 武和
國枝 武和東京大学大学院理学系研究科 准教授